手術支援ロボットdaVinci®による前立腺全摘術

2019年4月に当院に手術支援ロボットダビンチ®が導入されました(図1、2)。当科では前立腺癌に対する前立腺全摘術をおこなっています。
前立腺全摘術は簡単に言うと前立腺と精嚢、精管の一部を周りから剥離して膀胱と尿道と切り離して摘出し、膀胱と尿道をつなぎ合わせるという手術です。
手術1日前に入院し、手術は全身麻酔でおよそ3−5時間かかります。手術翌日には歩行開始し、夕食から食事が再開されます。術後3−4日目にドレーンという下腹部への管を抜去します。最後に残った尿道カテーテルは術後6-7日目に造影検査をして膀胱と尿道の吻合部から漏出が無ければ抜去されます。数日排尿状態を観察し、術後7−10日目に退院となります。

ロボット支援手術は、腹腔鏡手術の鉗子が多関節になっており(図3)、人間の関節ではあり得ないような範囲の動きを円滑に実現します。これにより狭いスペースでも細かい操作が可能になります。術者はコンソールというコクピットで、2つのレンズがついた腹腔鏡で最大10倍に拡大された3D立体画像を観ながらダビンチ®を遠隔操作します。
腹腔内は炭酸ガスで気腹して操作スペースを保ちます。カメラの場所を含めて6カ所に穴を開けてポートを設置してカメラや鉗子を挿入します(図4)。
前立腺は骨盤の奥の奥の臓器であるため、開腹での前立腺手術は視野の確保と出血したときのコントロールが非常に難しい手術です。ダビンチ®は狭いところでの精密な操作が最も得意とする所です。開腹術に比べてまるでおなかの中に入り込んで手術しているような気になるほどに視野は圧倒的に良くなりました。
しかし必要な部位は拡大視野でよく見えるのですが、それは死角も多くなる事を意味します。見えないところでトラブルが起きてないか、常に気を遣う必要もあります。

また気腹しているので、その圧力をある程度高めて静脈の中の圧と同じくらいにすれば血管を切っても出血しないという現象がおきます。今まで大出血の危険が高かった前立腺全摘でしたが、大幅に減少して概ね50−200mlで手術をしており、安全性も向上しています。
前立腺全摘術後の問題点として、尿失禁があります。手術後に尿道カテーテルを抜去した直後はほとんどの尿が漏れてしまう事もあります。この失禁のメカニズムはまだ明確にはわかっていません。失禁の程度は非常に個人差があります。術後1年約90%の方はほぼ失禁はなくなりますが、ロボット手術では開腹術に比べて改善の速度が速いと感じています。

そもそも前立腺を過不足無く摘除するのはかなり難しい手術です。解剖学的に外見からは前立腺の境界ラインは明確には見えないからです。国際的な見解ではロボット手術によって癌の根治性が良くなったとは未だ証明されていません。結局は術者の経験と技術によることになります。
これまで当科では開腹でこの手術を行い、治療成績は大学病院やセンター病院に引けをとらないと自負しております。ダビンチ®が全てを改善させるわけではありませんがその利点を最大限活用し、開腹術で培った技術を応用してより低侵襲で合併症の少ない手術を実践して参ります。

(図1)

(図2)

(図3)

(図4)

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