胃がんについて
我が国では、高齢化に伴ってがんの死亡率が上昇傾向にあります。その中にあって胃がんの年齢調整死亡率は、男性で肺がんについで2位、女性では4位ですが、低下傾向にあります。日本の胃癌の治療成績は諸外国に比べ高いとされ、その治療体系は日本胃癌学会の胃癌治療ガイドラインにまとめられています。
当院では原則ガイドラインに準じて胃癌に対する内視鏡的切除、手術(腹腔鏡・ロボット手術を含む)、術前術後化学療法などに取り組んでいます。腹腔鏡手術に関しては進行癌や胃全摘・噴門側胃切除症例へも手術適応を広げており、開腹手術は減少しております。
<高齢患者様への対応>
近年、高齢化に伴い80歳や90歳を超える患者様への胃癌治療も増えてきました。高齢者に対する治療に関しては、患者様およびご家族との十分な相談の上で個別に治療方針を決めております(この場合、必ずしもガイドラインに準拠するわけではありません)。遠慮なく担当医へご相談ください。
胃がんの進行度
胃がんの進行度(病期)については、壁深達度とリンパ節及び他臓器転移の程度によって、病期Iから病期IVBまでに分類されます(日本胃癌学会編「胃癌取扱い規約」)。そして各病期に応じた標準的な治療は、胃癌治療ガイドラインにおいて決められております。
まず内視鏡及び内視鏡生検での組織診断を確定し、その病期を推定するために、治療前に腹部CTや、超音波検査、必要に応じてMRIなどを行います。
治療
主な治療に、内視鏡的治療、腹腔鏡下手術、開腹手術、化学療法(抗がん剤)、放射線療法、などがあります。胃癌の診断がついて、画像で病巣の範囲が明確になれば、病期を推定することができます。患者さんの全身状態を評価した上で、各々のケースでどのような治療が実際に可能であるか、また、その副作用や合併症などについてお話します。そして、最終的には、ご本人ご家族が希望される治療方法を選択することになります。
以下に治療方法について述べます。
≪内視鏡的治療≫
EMR(endoscopic mucosal resection、内視鏡的粘膜切除術)やESD(endoscopic submucosal dissection、内視鏡的粘膜下層剥離術)を行っています。リンパ節転移がない粘膜内癌が対象になり、色素内視鏡やNBI内視鏡で病巣の範囲を明確にして切除範囲を決定します。内視鏡治療の利点は胃を温存できることであり、QOLが高いことは言うまでもありません。これまでの胃癌の統計から、どのような症例にリンパ節転移の頻度が極めて少ないかがわかってきましたので、そのような症例を適応にして、積極的に内視鏡的治療を行っています。最近では胃癌検診で2㎜程度の早期胃癌も見つけることが可能となり、ESD症例は年々増加し100例/年以上行われております。
多くの症例が手術室で全身麻酔下に行われており、手技中の苦痛はまずありません。
内視鏡で病変の周囲にマーキングをして、その部分の粘膜下に薬液を注入して処置具を用いて通電して止血をしながら切除します(図1)。通常、短期の入院を要します。合併症として、出血、穿孔などをおこす可能性も少ないながらあります。
≪腹腔鏡下胃切除術≫
現在、内視鏡治療の適応外となる早期癌から進行胃がんまで多くの手術症例が腹腔鏡手術で治療されており、胃全摘術や噴門側胃切除など高難易度手術に対しても鏡視下手術で対応しております。最近ではロボット手術も導入しております。術後は1㎝程度の傷が4-5カ所であるため疼痛が軽減され早期の離床が可能になりました。術後の摂食状況が良好な場合には手術から10日目くらいでの退院も可能です。また、進行癌に対しては早期に術後化学療法を導入できるメリットもあります。腹腔鏡手術やロボット手術は技術的難易度が高いため、技術認定医を中心としたチームで治療にあたっております。
≪開腹手術≫
複数の開腹手術既往のある症例や、高度進行胃がん、併存疾患や高齢のために長時間麻酔が困難な症例に対しては開腹手術を行うこともあります。
≪化学療法(抗がん剤による治療)≫
抗がん剤は、全身投与するため、手術や放射線治療と異なり、全身療法として位置づけられており、治療方針は基本的にガイドラインで推奨される治療薬を使用し、外科医および腫瘍内科医が中心となって治療を行います。化学療法は大きく分けて、高度進行胃がんに対する術前化学療法、進行癌術後の再発予防を目的とした術後補助化学療法、再発した場合に行われる化学療法の3種類があります。術前化学療法は手術前のCTでリンパ節への高度転移が確認された場合などに手術前に計画的に抗がん剤を投与し、癌を縮小させたうえで手術を行うものです。術前化学療法を行う患者様には、治療前により正確な診断をするため審査腹腔鏡検査を受けて頂くこともあります。また、初診時に手術による切除が困難と診断した患者様に対しても抗がん剤治療が適応となりますが、抗がん剤治療によって癌が縮小し手術切除が可能となった患者様もおります。治療薬は主に内服薬TS-1に点滴剤(オキサリプラチン)を併せて使用するSOXや点滴のみで行うFOLFOXなどを選択しております。術後補助化学療法とは、手術後に再発予防を目的として行う化学療法です。術後診断StageIIの患者様に対しては内服薬TS-1の1年投与、StageIII以上の患者様に対してはTS-1に点滴薬(オキサリプラチン ドセタキセルなどの)を併用して1年間の補助化学療法を行います。そして再発された患者様に対してはTS-1+点滴による化学療法やFOLFOXなどの点滴治療を1次治療として行います。1次治療が効果不良の場合には、ラムシルマブという分子標的薬を用いた治療、さらに3次治療ではオプジーボなど現在は多くの治療薬が出ており、再発後に長期治療をされる患者様も増えてまいりました。私達は治療の選択肢が残されている限り、決して治療をあきらめません。しかし、治療が延命目的だけにならぬよう、個々の患者様の経済状況やライフプランに併せて最適の治療をご相談の上に提供してまいります。
粘膜下腫瘍(Submucosal Tumor) について
粘膜下腫瘍とは、消化管の粘膜より深い層(粘膜下層・筋層・漿膜)から発生する腫瘍であり、消化管の粘膜(一番表面)から発生する悪性腫瘍である『がん』とは異なります。粘膜下腫瘍には、GIST(GastroIntestinal Stromal Tumor)、平滑筋腫、平滑筋肉腫、神経鞘腫、神経線維腫などがありますが、その中でも最も頻度が高いのがGISTであり、約7割が胃に発生します。GISTの腫瘍細胞はカハール介在細胞を由来としており、c-kit遺伝子の突然変異によるKIT蛋白の異常により、細胞が異常増殖を起こす腫瘍です。50~60歳代に多く、頻度としては10万人に1~2人の割合といわれており、良性~悪性まで様々です。
一般に無症状で検診や他疾患検査で偶然見つかることが多いのですが、腫瘍が大きくなると腹部の違和感、腹痛や吐き気などを生じ、さらには吐血や下血で救急搬送されてくることもあります。
粘膜下腫瘍と診断された場合は、内視鏡やCT、MRIなどの検査で腫瘍の大きさや性質、転移の有無を確認し、治療方針を決定します。腫瘍が消化管粘膜に覆われているため、病理診断には穿刺組織診という特殊な方法用いる必要があり、その正診率もそれほど高くありません。このため、比較的大きな腫瘍では手術後に確定診断をつけることも少なくありません。
治療はGIST診療ガイドラインに沿って治療を行っております。大まかな指針は2㎝以下であれば経過観察、2㎝以上であれば検査を行い悪性が疑われる場合に手術、5㎝以上であれば原則手術となっております。
外科的切除では、多くが腹腔鏡手術で局所切除を行います。しかし、腫瘍の大きさやできた部位によっては胃癌手術同様に広範な胃切除が必要となることもありますし、それを開腹手術で行うこともあります。
局所切除の方法は、粘膜下腫瘍のできた場所によって大きく3つの方法で対応しております。胃壁の外側に粘膜下腫瘍ができた場合には切除用の機械で切り取ります。一番簡便な手術です。
粘膜下腫瘍が胃壁の中央にできた場合には、CLEAN-NETで対応します。下のイラストのごとく胃壁外側の漿膜・筋層を切開して腫瘍を外側に引き出したのちに、手術用機械で切り取ります。
そして、胃の内側に粘膜下腫瘍ができている場合には、LECS(腹腔鏡内視鏡合同手術)で対応します。まず、胃の内側から内視鏡で腫瘍を切り取り、空いた穴を腹腔鏡手術で閉鎖する方法です。
手術不能症例や手術後の再発予防を目的とした薬物治療では、グリベックなどの分子標的治療薬を用います。